皆さん、こんばんは。
まだまだ暑い京都ですが、夕方になると肌を撫ぜる風も心地よく、散歩で見かける赤とんぼに秋の訪れを感じます。
ついさっきまでオリンピックの熱気にほやされていたことを思うと、月日のながれるのはなんと速い事でしょう。
改めて「一日一日を大事に生きないと」と思いました(一瞬ですが)。
さて、本日も前回に引き続いて
ぺネルぺ・ルイス著「眠っている時、脳では凄い事が起きている」
(原題「The Secret World of Sleep」)
をいってみたいと思います。
最近朗読した夏目漱石の作品に「夢十夜」というものがあります。
漱石が見た夢を10の物語として書かれたものですが、どの夢もちょっとオカルト要素を含む魔訶不思議なストーリーです。
時間軸も過去、現在、未来に渡っており、場所も海や川や森など実に多様なシチュエーションが展開されます。
私は、やっぱり文豪の見る夢はそれだけで小説になるほど奇異で複雑なものなんだなあと思って読んでいましたが、「眠っている時、脳では凄い事が起きている」を読み進めるうちにそれにも理由があることを知りました。
一説によると、夢を見る能力は「その人の創造的、想像的、感情的思考の全般的能力につながっている可能性がある」らしいのです。
例えば反証として挙げられる事例に以下のものがあります。
・自閉症の人は比較的短く単純な夢を見て、それをあまり詳細に想い出せない。
・統合失調症の人が見る夢は短く、幻覚のような内容は少ない。攻撃の場面が多く、多くは自分が攻撃されている。
・うつ病の人は様々だが割と否定的で自虐的な夢を見る。
更に、ソームズの研究によると前頭前皮質腹内側部が傷ついた人は夢を見る能力を失っているらしいことが発見されました。
逆に脳の報酬系に化学的な刺激(L-ドパ製剤)を投与すると、過度の異常なほど鮮明な夢が現れるそうです。
どうやら夢をみる行為と言うのは、記憶を適当に組み合わした映像を見るだけのものではないようです。
有名どころでいうとフロイトの「欲望現出説」などがありますが、現在は「脅威に対するリハーサル説」なども提唱されているようです。
つまり実際に危機に遭遇したときにより良く順応できるように、寝ている間にイメージトレーニングをしているというものです。
ちなみに夢はレム睡眠時にだけ見るようなイメージがありますが、実際のところはノンレム睡眠時にも見ています。
ノンレム睡眠時の夢は、レム睡眠の時よりも短いがまとまっている傾向があり、前日の出来事に関連している事が多いそうです。
逆にレム睡眠時の夢は奇妙で支離滅裂です。
漱石の見た夢はおそらくレム睡眠時のものでしょう。
しかし夢ってあまり覚えていませんよね。
見ている事は覚えているのですが、内容が思い出せない。それも朝目覚めると突然に。
実はこれにも理由があったのです。
我々の脳は睡眠中にコルチゾール濃度が徐々に高まっていきます。
コルチゾールはストレスホルモンとも呼ばれているもので、動く為のやる気をもたらす脳内物質です。
このコルチゾールとセロトニンがバランスを取り合って、朝に目覚め、夜に眠るのですが、起床前に最大限にまで高まったコルチゾールは脳内の海馬(記憶領域)と新皮質(思考領域)の接続をあえて阻害します。
つまり、新皮質で想像した出来事が海馬に蓄積されなくなるのです。
なので考えた事(つまり夢)が記憶に残りにくくなるのです。
ではなぜあえて夢を記憶に残さないようにしているのか?
実はこれにも理由があって、人が夢で見た脅威と現実とを混同して、混乱してしまうことを防いでいるのです。(恐らくこの能力を獲得する以前の人間は、混乱して命の危険に何度も晒されたのでしょう。例えば夢で見た捕食動物の存在が現実と区別できなくなったとか……)
同じような理由で、脳は夢を見て体が反応しないようにあえて眼球以外の運動神経接続を切っているようです。アクティブな夢に反応して怪我をしないようにしているのです。(これも恐らく何度も命の危険にさらされたのでしょう)
金縛りなどはこの状態で意識が覚醒してしまった状態、或いはそれも夢なのかもしれません。
という訳で、さらっと夢について説明してみました。
これらを鑑みたうえで改めて漱石の10の夢を読むと、確かに「創造的、想像的、感情的思考」の突出具合がうかがえます。
さらに漱石は神経症(今でいう鬱っぽい症状)にも悩まされていたそうなので、必然的にレム睡眠比率が長くなっていたはずです。
同様の意味でコルチゾール濃度も上がりにくくなっていたはずなので、見た夢も割と記憶に残っていた、と。
作家としてはプラスだったのかもしれませんが、QoL(生活の質)は最悪だったでしょう。おそらく夢も鮮明で生々しかったはずでしょうし。
最後に、私は漱石の「夢十夜」はあまり好きではありません。
(自分の夢も意味不明なのに他人の夢が理解出来るはずがない!)
それでは!
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